「在るということ」「無いということ」

文系のためのめっちゃやさしい無とは何か

佐々木 真人 (監修)

現代物理での「無」の考え方が、知識ゼロでも読める超入門書。数字のゼロから、無の空間「真空」、宇宙を生んだ究極の「無」まで、大学の先生と文系サラリーマンの対話形式でわかりやすく解説する。偉人のエピソードも紹介。

https://honto.jp/netstore/pd-book_31616995.html

 「私は,海辺で遊んでいる少年のようである。ときおり,普通のものよりもなめらかな小石やかわいい貝殻を見つけて夢中になっている。真理の大海は,すべてが未発見のまま,目の前に広がっているというのに」。
 この出版社名にもなっている,偉大な物理学者アイザック・ニュートンは,自然の真理の奥深さを例えて,そういいました。真理に向かう人の,ひた向きで純粋な情熱と畏敬が表れていて,私の好きな言葉です。
 自然や宇宙は現に存在している。われわれはそう思います。しかし,その「在るということ」の意味を深めようとすると,必ず「無いということ」の真相が重要な鍵になってきます。皆さんは,この本のあちこちで,科学者が「存在」や「現象」を理解しようと苦悩の末に「無」の真相に導く“ 美しい小石や貝殻” を発見してきたということに気づくはずです。
 およそ138 億年前に宇宙が「無」から誕生し,今の「存在」の大半が,見えない暗黒物質や暗黒エネルギーだといわれています。「何も無い」世界は,実は「沸き立つ無限のエネルギー」で満ちている。何やら禅問答のようですが,現代物理学のたどり着いた自然の描像です。
  ニュートンは,こうもいっています。「私が遠くを見ることができたのは,巨人たちの肩に乗っていたからです」。美しい真理の“ 小石や貝殻” も,科学者らの不断の探求によって,いまや岩山のようにそびえたっていると思えるかもしれません。でも,心配いりません。この本で,すっと巨人たちの肩に乗ってしまいましょう。素晴らしい“ 真理の大海” が目の前に広がるはずです。

監修
東京大学 宇宙線研究所准教授
佐々木 真人

ーーー 本書「はじめに」より ーーー

「知のバザール」研究ベーシックインカムの可能性

「大学の自治」は単に与えられるものでなく、主体側の責任が大きい。大学がそれを享受し発展的に活用できればよかったが、単なる牙城と化し一部の集団が横暴を極める口実を与えた歴史は清算すべきだ。国民の人権「学問の自由」と「大学の自治」の切り離しは「学問の近代化」にとって重要だと思える。

「選択と集中」路線には反対だが、国際卓越大学構想における「大学ファンド」「稼げる大学」の考えは前進と評価する。個人的には、「直接研究者に届く、研究業績指標考慮したベーシックインカム」と政府指導でなく市場原理に任せフラットな「研究ファンド」組み合わせが最終的には良いと考える。「大学の自治」の濫用があるならば実態にテコ入れや風通しも必要だろう。

仮に、「直接研究者に届くベーシックインカム+研究ファンド」が運用されれば、究極的に「大学」はより「交流の場=フォーラム」となっていく。プラトンが作ったアカデメイア、中世ボローニャ大学やパリ大学、ひいては日本の松下村塾など、自然発生的に集い学び考える本来の機能に復帰できるかも知れない。今後、積極的に知の連携を求めるべき大学は、真の「知の源泉」たる研究者を閉じ込め管理統括し疲弊させる「伽藍」であってはならないだろう。その意味で、私の考える進化した大学の機能の例えとしては、オープンソース・イノベーションを支える考えである「伽藍とバザール」の「バザール」の方が、より適切かも知れない。

大学は「知のバザール」となるべきだろう。

「伽藍とバザール」自体は、エリック・レイモンドによって書かれたオープンソースソフトウェア(OSS)のソフトウェア開発方式に関する書で比喩として用いられた有名な言葉。「閉じた伽藍から開かれたバザールに移行せよ」という方向性への示唆である。

小柴昌俊先生の3つの言葉

折戸周治先生が、小柴先生の東大理学部の教授ポストを継がれた丁度その頃、修士学生で入ってきたのが私だった。東大在職時の小柴先生から直接ご指導頂いた最後の学生といえる。小柴先生を偲んで、先生から頂いた3つの言葉を記したい。

“高エネルギーニュートリノで角度精度の良い天文学を”

小柴先生は熱心に折戸先生や修士1年の私にそう言われた。大面積の水チェレンコフ検出器で高いエネルギーの上向きミューオンを検出し、その到来方向から精度よくニュートリノ発生天体を見つけ出そうと、ご提案された。私はこの提案の具体化に携わった。上からくるガンマ線も、厳しいバックグラウンドである陽子空気シャワーに含まれるミューオンの数で峻別して除去できることを示し、高エネルギーのニュートリノとガンマ線の複合検出器として「ニュートリノ&ガンマ線水チェレンコフ検出器 LENAの提案」を修士論文にした。陽子はクオーク複合粒子だが、ニュートリノもガンマ線も真の素粒子である。さらに電荷も持たず、厄介な宇宙空間の磁場に影響を受けず精度の高い天文学が可能である。「素粒子天文学」が次世代の宇宙を解く鍵である。

“100倍性能向上ない実験はやらない”

小柴先生は、従来の方式を踏襲して単に大きくするような実験をしたくないと仰っていた。100倍の性能向上をもたらすアイデアは大変だが、創意独創のイノベーションによる新しい挑戦が大事ということである。「技術革新による創生」が、実験物理学者に求められる挑戦である。小柴先生から頂いた物理学者としての生き方の教訓である。

“タウは見えないのか?” 

私は、「ニュートリノ&ガンマ線水チェレンコフ検出器 LENAの提案」のため、検出器をシミュレートしたり、基礎的な実験を繰り返していた。その中で、小柴先生は、しきりに、タウを見たいと仰った。具体的には、ニュートリノ振動の証拠として、タウアピアランス実験をやりたいということである。一方で、小柴先生は、創生的実験は、コストパフォーマンスにも優れて安くなければならないという信念もおありだったので、素粒子天文の創生に必要ぎりぎりの5mグリッドでセンサーである光電子増倍管を大面積に配置しようとしていた。加速器実験で嫌というほど分かるのだが、粒子識別にはセンサーの密度が肝である。残念ながら、この5mグリッドの粗さとタウレプトン識別とは相容れなかった。その後、ずっとタウを探針とした宇宙探索が大きな宿題となった。後に、それは「地球かすりタウ」を撮像検出するAshra NTA (ニュートリノ望遠鏡) 検出器として開発されることとなった。新たなメッセンジャー素粒子による新たな天文学。タウニュートリノが地球と衝突してレプトン変換され生成されるタウによる宇宙探査は、現在、最も注目すべき天文物理学と言えるようになった。宇宙の高エネルギー現象への探針として先行して活躍してきているガンマ線と共に複合観測することで、より豊かで確実な、タウによる天文学の創生がもたらされるであろう。タウとガンマ線との複合的な探針による天文学。小柴先生に頂いた未来の天文物理への大切な方向性と言える。

小柴昌俊先生のご冥福をお祈りします。

昨日2020年11月12日夜に、小柴昌俊先生がお亡くなりになったとの知らせがあった。

小柴先生のご冥福を心よりお祈りします。

小柴先生は、私が大学院生の頃の指導教官である折戸周治先生の指導教官だった。折戸先生は小柴先生の東大理学部の教授ポストを継いだ。丁度その頃、修士学生で入ってきたのが私だった。小柴先生は、ノーべル賞受賞にもなった初代カミオカンデを用いて超新星1987Aからのニュートリノ検出の画期的なご業績の後、もっと高いエネルギーのニュートリノを用いて到来方向の決定精度の良い天文学をやりたいと夢をもっておられた。私の修士論文研究のテーマ:高エネルギーニュートリノ・ガンマ線天文検出器LENAは小柴先生から頂いた。その頃の1,2年の間、小柴先生と同じ夢を求めてご一緒させて頂けたことは大変幸せだった。当時の私は小柴先生のご要望に応えようと必死だったが多くのことを教えて頂き議論させて頂けた。とても感謝している。今も小柴先生から頂いた同じ夢を求めて研究している。

当時の、私の修士論文研究も引用されている小柴昌俊先生の講演録がある。

M. Koshiba, “Steller Neutrinos and Cosmic Rays”, Proceedings of the fifth workshop on elementary-particle picture of the Universe, Izu, November 19-21, 1990.

初代カミオカンデの成果のまとめ、特に、ニュートリノ振動の証拠となる宇宙線ニュートリノ流束欠損の緻密な解析は素晴らしい。この時既に、以下に掲げるように「ミューニュートリノの欠損は確立した。この観測された異常の有力な説明の一つは、ニュートリノ振動に求めることができるだろう。」と大発見の事実を看破されていた。それに、高エネルギーニュートリノ天文への熱情も感じられる。常に新しい実験素粒子物理の最前線を目指されたまさに先達であった。

「さらに言えば」基礎自然科学における「リーマンショック」は近いかも知れない

Scientific American誌のブログにて、バージニア大学の病理学教授であるジェームス・ジムリング氏は、2019年時点での科学研究のシステムが、サブプライム住宅ローン危機のような事態を招きかねないとして警告して … “「さらに言えば」基礎自然科学における「リーマンショック」は近いかも知れない” の続きを読む

Scientific American誌のブログにて、バージニア大学の病理学教授であるジェームス・ジムリング氏は、2019年時点での科学研究のシステムが、サブプライム住宅ローン危機のような事態を招きかねないとして警告している。

We’re Incentivizing Bad Science – Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/were-incentivizing-bad-science/

「弱い証拠をもとにたくさん刺激的な論文を発表する人」が「長い時間をかけて十分な証拠を集めて数少ない論文を 発表する人」よりも報われ、自分以外の科学者や企業がフォローアップ研究を行ってくれ、論文を発表した科学者がリスクを負わなくてよい世界が、科学界でサ ブプライム・ローン危機を起こしうる状況だとジムリング氏は指摘する。

科学研究の再現性が危機に瀕していることは、これまでにもたびたび指摘されてきた。研究者のいうままに、大々的にプレス発表された「大発見」も、その2年後の国際会議では統計精度が上がって有為性が消えてしまった例など、これまで幾つもあった。いわゆる「出版バイアス」の問題で、否定的な正しい研究結果は一般大衆の耳に届かない。このシステムのメカニズムを多かれ少なかれ利用する研究者もいるように思える。

ジムリング氏の警告は科学の問題の現状を捉えて的確だ。「さらに言えば」現存するインセンティブの構造を変えるためにリーダーシップが取られない限り、そして、科学を扱うマスコミがもっと大局的で中立な立場で真実を報道しない限り、基礎科学における「リーマンショック」が起こる日が近いのかも知れない。

「さらに言えば」基礎自然科学においても「とんでもない発想」からの「挑戦をやりやすくする環境」が重要

日経新聞のインタビューで、今年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった本庶佑・京都大学特別教授が大変よいことを述べている。「計画を立てて金をかければできることはイノベーションではない。金で解決することとイノベーションは次 … “「さらに言えば」基礎自然科学においても「とんでもない発想」からの「挑戦をやりやすくする環境」が重要” の続きを読む

日経新聞のインタビューで、今年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった本庶佑・京都大学特別教授が大変よいことを述べている。「計画を立てて金をかければできることはイノベーションではない。金で解決することとイノベーションは次元が違う。」「目的が決まった研究費はイノベーションを生むお金の使い方ではない。研究者を型にはめてしまうため、とんでもない発想を生み出せないからだ。」「近年は特に研究費のバランスが型にはめる方向に寄りすぎており、問題だ。もっと自由にやらせる方向に比重を持ってこないといけない」、、、

日経2018年12月3日 ノーベル賞・本庶佑氏「ばかげた挑戦が革新生む」

そのとおりだと思う。さらに言えば、ますます集団化・巨大化する、昨今の基礎自然科学の在り方はどうか? 個の科学者が生み出す「とんでもない発想」からの「挑戦をやりやすくする環境整備」が重要である。

VHEPA2019 Feb. 18-20 Kashiwa

The 10th International workshop on Very High Energy Particle Astronomy (VHEPA2019) https://www.icrr.u-tokyo.ac … “VHEPA2019 Feb. 18-20 Kashiwa” の続きを読む

The 10th International workshop on Very High Energy Particle Astronomy
(VHEPA2019)

https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/indico/event/179/

The International workshop on Very High Energy Particle Astronomy (VHEPA) aims at a comprehensive understanding of the high energy universe with a focus on multi-messenger astronomy and astro-particle physics. The workshop brings together experts in cosmic-ray and high energy neutrino physics, and young researchers who are interested in joining this emerging field.

Previous VHEPA workshops have been held at Kashiwa, Honolulu, Hilo and Taipei.

The 10th International Workshop on Very High Energy Particle Astronomy in 2019 (VHEPA2019), will be held  at the Institute for Cosmic Ray Research (ICRR) on the Kashiwa Campus of The University of Tokyo, Japan, February 18-20, 2019. The purpose of the workshop is to discuss prospects for PeV and EeV astroparticle physics in the multiple-messenger era following recent observations and future projects in the field of Very High Energy Particle Astrophysics.

We welcome your active participation and your attendance from all of you.

Organizing Committee
International Advisory Committee:
F. Halzen、K.-H. Kampert、T. Kifune、T. Yanagida

Program Committee:
T. Browder、D. Marfatia、R. Mussa

Local Organizing Committee:
M. Ibe、S. Ogawa、M. Sasaki

Astroparticle Conference ICRC2017 12-20 July 2017 BEXCO Busan Korea

ICRC2017 http://www.icrc2017.org/index.php?hCode=INTRO_01_01 Presentation: Neutrino Telescope Array (NTA): Mul … “Astroparticle Conference ICRC2017 12-20 July 2017 BEXCO Busan Korea” の続きを読む

ICRC2017

http://www.icrc2017.org/index.php?hCode=INTRO_01_01

Presentation:

Neutrino Telescope Array (NTA):
Multi-Astroparticle Explorer for PeV-EeV Universe

— For Clear Identification of Cosmic Accelerators and Cosmic Beam Physics —

Makoto Sasaki
Institute for Cosmic Ray Research, The University of Tokyo